エピローグを追加して全編を載せております。
AIとロボ技術が発展した未来。
人類は生活にも仕事にも汎用型メイドロボを導入するようになった。
会社では事務作業だけでなく商品の新企画や新たな技術開発に、家庭でも家事育児はもちろん、買い物から家のかんたんな補修までこなすのだ。
政治の世界でも下手な秘書を数人雇うより1台メイドロボを導入したほうが効率が良いともっぱらの評判だ。
佐渡権蔵(さど ごんぞう)国会議員も経費を削減できると聞いて最近一台導入した政治家の1人だった。いつ口を滑らせたり、裏切ったりするかわからない人間よりよっぽどうまくやってくれるのだ。
(ま、本人はそう思ってるんでしょうけどね)
サキはメイドロボが見ている映像の中から汚職につながるであろう証拠が写ったものを探している。
もちろんこのメイドロボは外部に通信をしたり、遠隔操作するような機能は削除されている。
ではサキはどうやって見ているのか。
それはサキが所属している研究所が作った機械で自分の魂をデータとして書き出し、メイドロボの根幹OSの一部に書き込んで、メイドロボのいち機能として存在しているのだ。
証拠を見つけるたびにOS領域に隠蔽ファイルとして退避してゆく。これで万が一メイドロボのストレージ部分を消されても影響を受けないし、技術者でもよほど詳しくないと見つけることはできないだろう。
(そろそろ証拠も十分ね…じゃあ)
サキはメイドロボの右足の稼働に使用しているモーターを異常回転させる。
「な、なんだ?!」
「ERROR1201 、サーボ機構の故障です。サービスセンターーへ連絡してください」
権蔵が慌てた声を出すが、メイドロボが発した音声から故障と分かると、少しイライラした様子で連絡をする。
「あー、こりゃちょっとここでは直せないですね」
すぐに訪れたサービスマンの男が根を上げる。
「なに!修理にはどれくらいかかるんだ」
「いや研究所の設備であればすぐ直せますよ。そうですね権造先生にはお世話になってますし、明日には直して持ってきますよ」
「本当か?ならいいが…。もうこいつがいないと仕事が回らなくてな」
サービスマンはメイドロボの待機状態にし、台車に載せる。
「おっと、ちょっと待て」
そういうと権蔵はメイドロボの耳の後ろにあるスロットからストレージカードを抜き取る。
「お、すいません気が付かずに」
「修理のときにデータが消えたら困るのでな、ははは」
「はい、では修理してまいりますので」
サービスマンは台車を押し、権蔵の事務所から出ていった。
「おい、サキちゃんもういいぞ」
車に乗り込んだサービスマンが声をかける。
「ふー、ようやく開放されたわ」
助手席に座らされたメイドロボが伸びをしたかと思うと急に人間臭い動きとなる。
メイドロボのAIを待機状態にするとサキに操作権限が渡るのだ。
「意外と時間がかかったな、捜査班のやつらがやきもきしてたぞ」
「権蔵がなかなか慎重でね…最初の数ヶ月は本当に雑用ばっかりだったわ」
ようやく信用に足るとおもわれたのか、表には出せないような書類が回ってくるようになったのがここ一ヶ月の話だ。
「半年も充電クレイドルと机の往復でよく気が狂わないな」
サキは、何言ってるのよと呆れる。
「最初はほぼ私の意識は眠ってたわ。充電中に少し起動してチェックして…怪しいのが出てくるまではその繰り返し。体感では2週間ぐらい残業したような感じよ」
「なるほど、しかし普通はメイドロボに服を着せると思うんだが…」
運転をしながらちらりとサキを眺める。
「あまり興味がなかったのかケチなのか、デフォルトのままだったわね」
サキは自身の服装を指でつまみ、離す。
パチンと音を立てて肌に密着するそれは、レオタードとよばれる衣装だ。人間と同じ規格の服を使えるメイドロボは納品後に購入者が与えることが多い。
メイドロボと感覚を共有していたことはほぼなかったのであまり意識をしていなかったが、いまは少し恥ずかしい。
体重は機械なので若干重いが、身長150cmの細身の体は年頃の女性体とそんなに変わらない。皮膚もよくできた人工皮膚で、耐久性は抜群である。
ただし顔はほぼ統一されており、また耳には長いアンテナも付いているため、見ればすぐメイドロボと分かる。
(権蔵の見る目はちょっといやらしかったから…わざとね)
研究所についたサキと男は、部屋で待っていた捜査班の男たちにデータをアウトプットして渡す。
「ありがとうございます」
「いえいえ、研究資金の事よろしくお願いしますよ」
研究所の所長は今回、権蔵と地位を争う政治家に協力することでこの魂のデータ化の研究を存続させようとしている。
研究員だったサキは白羽の矢で今回メイドロボにインストールされることになったのだった。
「所長、ボーナス忘れないでくださいよ」
「おう、これで資金援助があれば問題ない、任せなさい」
「やったー、で私の身体は、どこです?」
所長がパネルを操作すると、モニタに円柱の中に浮かんだ私の身体が、映し出される。
「もちろんここにちゃんと保管しておる」
「ちょっと?!裸じゃないですか!みんなに見せないでください!」
「おっとすまんすまん」
モニタはすぐに暗くなる。
「元に戻すための準備をするか。まずは転送中にトラブルが起きるとまずいからな。サキ君その身体を充電してくれたまえ」
私は視界の隅に時計と共に表示される充電率を確認する。
事務仕事とはいえ、さすがに夕方となると残り30%まで低下している。
「そうですね、フル充電まで3時間32分かかるみたいです」
メイドロボに用意されたAPIから正確な充電時間を取得する。
「よし、では20時に元に戻す作業とするぞ」
もとの体に戻って、メイドロボを元のOSに戻して権蔵に返してこの件はお終いだ。権蔵の議員生命もその時に終わるのだろう。
「はーい」
私は部屋の隅に用意された充電クレードルに立つ。
(この充電の位置が嫌なのよね)
肩甲骨付近ぐらいの高さにつけられた電極に背中を合わせるとをつけると小さくカチッと音がする。
しばらくするとクレードルの背面からお尻に向かって一本の管が伸び、人間で言うお尻の穴に差し込まれる。
(排泄部分が必要ないとは言え、ここにつけることはないでしょうに)
充電中、と大きく目の前に表示されたのを確認して、サキはサスペンドモードに入り、意識を眠らせた。
数時間後には人間の体に戻れることを夢見て。
サキはおよそ3時間の充電の後目覚めた、はずだった。
(あら?)
なぜか充電クレードルの扉が締められれ、ロックされている。
輸送時や長期保管のための機構ではある扉は、普段は閉じられないものだ。
カプセルのような中に閉じ込められている形となっている。
(まあ、内部から開けることは可能だけど…)
短距離無線通信モジュールを起動し、扉の解除を行う。
特に問題もなく、プシューという排気音と共に扉が開く。
研究所の明かりは落とされていた。
もしかして、なにか問題があって作業は延期となったのだろうか。
そうだとしたら自分に一言もないのはちょっとひどいのではないか。
そう思いながら、ふと現在時刻を確認し驚愕する。
(え、24時間も経ってる…?)
表示された日付は、自身が回収されクレードルに入った日から1日たった20時であった。
タイマー設定を間違えたのだろうか、いやそれでも所長達が外部から起動するはずだ。
(何かあったのね)
部屋の照明のスイッチを通信から起動させる。
「なっ…」
整理整頓されていた部屋は一変していた。
書類はあたりに散らばり、棚のガラスはことごとく粉砕されている。部屋の壁には弾痕、そして-
(血痕…)
サキは振り返り、自身が入っていたクレードルを確認する。
(…扉をこじ開けようとした後があるわね)
どうやら私が充電クレードルに入った後、なにやら事件があったようだ…。
恐らく研究所員が私を守ろうとクレードルの扉をロックしたのだろう。
研究所の研究対象であったメイドロボは、トップシークレット扱いのため、このクレードルは盗難防止も兼ねていた。外部からの強い衝撃から守られ、クレードル自体も徹底的に固定されているため、私はトラブルに巻き込まれずに済んだようだ。
…果たして所長達は無事なのだろうか、この血痕がそうでなければいいのだが。
「っていうか…!私の身体は大丈夫なんでしょうね…!?」
そうだった。今、自分は機械の身体なのだ。
もし襲撃のときに元の身体に危害が加えられていたら…。
考えたくない予想に寒さを感じることのない身体がブルっと震える。
落ち着いて研究所のネットワークが生きていることを確認する。
研究所自体が強固なセキュリティで構築されており、停電時でも解錠ができないゾーンが存在する。身体もそのゾーンの奥深くに置かれていたはず。
セキュリティコンソールを呼び出し、扉のステータスと解錠ログを取得する。
(ステータスオンライン、解錠ログは試行規定回数に達してマスターロック中。解錠の形跡はナシと。セキュリティカメラは全てオフライン…破壊されてるみたいね)
どうやら侵入しようとした輩は居たようだが、解錠はされていないようだ。
とはいえカメラは破壊されてしまっており、研究所内の現在の状況は未だ不明だ。
(ひとまずは私の身体の無事を確認して、もとに戻らないと)
あれから1日、すでに所内に侵入者はいない可能性があるが、もしいた場合、この身体では対処するすべがない。OSに根本から設定されている「人間への攻撃の禁止」があるからだ。私の意識データはメイドロボOSに追記する形で書きこまれており、その制限から逃れることは出来ない。
(あった…!私の身体は無事!)
侵入の手が及んでいない地下カメラへアクセスし、私の身体を発見する。
帰ってきたときに見たときのまま、液体に満たされたガラスの筒の中に浮かんでいる。
私は研究室の扉から外の確認し、人の気配がないことを確認する。
「では地下室へいきますか…!」
荒らされて物が倒れ、散乱している廊下を辿り、細い階段を降りる。
地下の研究室へ通じる扉はやはりこじ開けようとしたあとがあり、塗装が剥げ、大量の引っかき傷が刻まれていた。
私は30桁のマスターコードを入力し、扉を解錠する。
「ふう、どうやら元に戻す機械も無事みたいね」
ガラス越しに見る自身の身体に異常は見られない。モニターのバイタル監視も正常である。
「やれやれ、ようやく目覚めてくれたか」
低い声が部屋の入口から聞こえ、私ははっと振り向く。
「…権蔵!」
そこには半年間調査をしていた対象…政治家の佐渡権蔵が立っていた。
地下室を再度マスターロックしなかったことに悔み、歯噛みする。
「あなたが研究所を襲ったのね…」
「いかにも。表に出せない仕事を任せてから少しして故障。まあ政治家であるなら怪しまないやつはいない。とはいえ…今回は間に合わんかったのだがね」
そう、汚職に関する情報は戻ってきてすぐにパトロンである政治家へと渡っている。恐らく検察の手にも渡り、捜査の手が及ぶのも時間の問題、となっているだろう。
「…とはいえやられっぱなしでは私も終われないからね、研究所を訪問させてお礼をさせてもらったよ」
手で銃の形をつくり、バーンと撃つ仕草をする権蔵。
そして権蔵は視線を奥にある私の身体へと向ける。
「ここはずいぶん面白いことを研究していたようだね。魂、意識のデータ化…そしてOSへの書き込み…なるほど、セキュリティスキャンをすり抜けるわけだ」
「…で、この機械を奪いに来たのかしら」
「ふふ、機械自体には興味が無いよ、俺はもうすぐ逮捕されるからな、持っていってもしょうがない」
興味があるのは…と視線を再度奥へ向ける権蔵。
「君の身体だよ」
「…どういうこと?意識のない身体をいたぶるのが趣味なのかしら」
「ははは、そんなことはしないさ。ただ、俺を失職させて、刑務所にぶち込むような真似をしてくれた人物に興味があっただけさ」
「そう…」
私は部屋のドアロックが生きていることを確認する。
"攻撃"に値しない程度に突き飛ばし、部屋から追い出す。これが恐らく残された唯一の作戦だ。
「しかしこう暗くてはよく見えんな…」
権蔵が部屋の明かりのスイッチを押そうと私から視線を外した瞬間を狙って私はダッシュしようとする-が。
「おい、明かりはどこだ」
『ライトを点灯します』
私の口が勝手に言葉を発する。
そして通信モジュールから部屋の明かりをつけてしまう。
(…!しまった、マスター権限が)
半年前、納品された段階で行われたマスター認証で、佐渡権蔵をマスターとして登録している。
本来であれば研究所に戻った段階で解除しておくべきだったが、悔やんでもも遅い。
私と並列で稼働しているAIが命令を実行してしまう。
権蔵はにやりと笑う。
「やはりまだ私がマスターのままのようだな、これは手間が省けたわい。おい…動くな。そこに立て」
全身に一瞬だけ振動が走ったかと思うと、駆け出そうとした姿勢を解除し、ピシっと直立し、身体が一切動かなくなった。
(う、動けない…)
まるで身体が硬い殻に閉じ込められてしまったかのように硬直してしまう。
「この研究に書かれた内容が事実だとすれば、俺は逃げることができる。罪に問われるのはこの佐渡権蔵ではなく、佐渡権蔵の身体なのだからな」
権蔵は書類を投げ捨てる。
「だが、残念なことに若い奴らが研究所の所員をみなやっちまった。扉をあけることも、恐らくこの機械を動かすこともできなくて焦っていたんだ。あと数日もすれば俺の居場所もバレるだろうし、そうしたら俺は破滅が確実だからな。望みはあのカプセルに入っていたお前だけだったんだよ、お前が動き出し、元の身体に戻ろうとするのを待っていた」
「あなたが、この汎用メイドロボの機体に入ると…?」
「まさか、何故俺がそんなロボットの身体を使わねばならんのだ」
権蔵が高笑いする。
「お前はどうやってあの身体に戻るつもりだったんだ?」
「OS領域から意識部分を分離、コンバーターで復元し脳へ書き込みを…」
喋りたくないのに、AIがペラペラと情報を発してしまう。
「それだ、それはつまり」
権蔵はにやりと笑う。
「俺の意識を、あの身体に書き込むことも可能、なんだろう?」
権蔵は親指で指さす先には私の身体。
「……まさか、私を乗っ取るつもりなの」
「俺の人生を台無しにしたんだ、それぐらいいだろう。おい、装置を稼働させろ。俺の意識を書き出して、あの女に書き込むんだ」
「や、やめて…!機械を経由しない、生身の身体から身体への書き込みはまだ研究すら…!」
直立していた身体が勝手に歩き出す。
全身に力を入れて踏ん張るが、それ以上の力で身体は端末の前まで移動してしまう。
「その座席に座り、頭にヘッドセットを装着してください」
権蔵は言われるまま椅子に座り、読み出し装置を装着する。
「オートパイロット正常に稼働しました。書き出しから転送までおよそ1時間となります、よろしいですか」
「問題ない、さっさとやれ」
「では開始します」
自分の身体に権蔵に明け渡す処置を設定していくメイドロボを止めることができない。
(やめて、とめて!ううう、だめ、命令が強すぎる…!)
私の手はスタートボタンをあっけなく押してしまう。
その後、転送が終わるまでの1時間、私はそのままの姿勢で立ち続けた。
---
若くして政治の道へ踏み込み、気がつけばもうすぐ50という歳。
自身の政策の遂行する為に少しでも良い地位を奪い合う弱肉強食、魑魅魍魎の世界を生き抜いてきた。勝ち抜くためには世間には言えないようなこともやらなければいけない。
1つの汚点を隠すために2つ、3つと表には出せないことが増えていく。
この件が明るみに出なければあと数年で大臣、ということもあったかもしれない。
だがその闘いに俺は負けたのだ。
異変に気がついたのは、俺が再度サポートに問い合わせようとしたのがきっかけだ。
その時は単純に明日の何時に来るのか、確認をしようとしただけだったのだが。
サービスマンを呼ぶ時、メイドロボが繰り返し発声していた番号へかけたのだが、改めて自身で調べてみれば、サイトにはそれとは異なる番号が記載されていたのだ。嫌な予感は当たるもので、そこへかけてみれば"そんな修理対応は受けていない"とコールセンターからは回答された。
慌てて履歴に残っていた番号や、事務所内の監視カメラ映像から偽サービスマンの車のナンバーを割り出し、所属を突き止める。
そいつの所属研究所は、何かと意見が衝突する政治家が関与している施設だった。
俺は天を仰いだ。恐らく証拠となりうるデータはすべて渡ってしまったと見てよいだろう。
長い間やってきた政治家の終わりなんてあっけないのだ。
自暴自棄になったわけではないが、タダでは終わらせるものか、と思った。
表には出せないことの1つである裏の連中共を率いて、研究所を襲撃させた。
ヤツにとっては失っても痛くも痒くない研究所だろうと思っていたが、研究内容をみて俺は驚いた。意識のデータ化、これはつまり不老不死を目指す研究ではないか。そしてある程度カタチになっている。
かき集めたレポートによれば不老不死にはまだ課題があるようだが、データ化、そして機械へのインストールは現段階で可能、と書かれている。そして読み進めていくうちに実験の一環と、上からの命令を兼ねて、あのメイドロボに人間の意識を埋め込んでいたことを知る。そしてその人間の身体がこの研究所に保管されていること、そして元に戻るための手段は既に確立していることも。俺は悔やむ。重要区画はロックされたまま、その操作をできる所員達はすでにこの世にはいない。
いや、だが1つだけ可能性があった。所長だった男がロックしたと思われるカプセルだ。
連中にこじ開けさせてもどうしても開かなかったカプセルには恐らく、あのメイドロボがいる。
恐らく、意識を元の人間に戻していない可能性が高い。
俺の考えが正しければ、俺は残りの人生を刑務所で過ごさなくても済む。
そう、この老いた身体を捨て、新しい身体に移ることができるかもしれないのだ。
…まあ、中に入っていたのが女の意識だとは思いもしなかったが。
真っ暗だった視界に弱い光を感じる。
徐々に、自分が水の中に漂っている、ということも感覚で分かってくる。
あの後俺は、メイドロボに機械を操作させたはずだ、成功したのだろうか…?
ピーという電子音と共にゴボゴボゴボと液体が排出され始める。
液体の代わりに自身の両足で身体を支える。
浮力を失い、水から出たにも関わらずその身体はやけに軽く、それでいて力強さを感じた。
俺はこの段階で賭けに勝ったのだと確信した。
胸には大きな異物と重さを感じる。男のときにはなかったモノだろうと想像がつく。
チューブ越しでしか見ていないが、なかなかの大きさだったことを思い出す。
薄っすらと、恐る恐る目を開け、俺は自分がチューブの中にいることを確認する。
チューブ内から見る研究所内は薄暗く、オペレーティングルームの様子もよくわからないが、そこにはあのスイッチを押したメイドロボが待機しているはずだ。
両手を目の前に持ってくる。
白く、細い腕、そしてしなやかな手、指。
男の時のような毛むくじゃらな手はそこにはなく、若い女の手がそこにはある。
視線を下に向ける。
そこには大きな2つの山が、床への視界を遮るように存在していた。
(ほほう、これは…)
その山を、それぞれの手で触れてみる。
乳房を見下ろすという視界、女性の手で触る感触、自身の膨らみがさわられる感触、すべてが新鮮で、いままでに体験したことがないものであった。
乳房が自身の下半身を遮ってしまうので、身体を捻って見てみる。
腰の細いくびれや、そして女性らしい丸みをもった大きなお尻、太腿、長い足。
若干、お腹に肉がついてぽっこりしているのも、逆に愛嬌がある。
そして股間には元の身体ではあるべきだったモノはない。
年老いた男の身体と全く違うその容姿を、自身の目と手で堪能する。
「んっ…」
思わず高い声が自身から漏れる。
そうか、これが俺の今の声なのだ。
(ふむ…男の身体ではないことに最初は気に食わなかったが…若い女の身体というのもなかなかよいではないか)
そう、そもそもまた政治家をやる必要などないのだ。
政治家時代に築いた地盤や地位は失ってしまうが、稼いだ金や資産の一部は隠してある。
この身体は若さ…生命力が満ち溢れているのだ、残りの人生、この身体で過ごすのも悪くはないのではないだろうか。
俺は裸のまま、オペレーティングルームへと足をすすめる。
「それに…」
俺の接近に気がついたメイドロボはスイッチを押したままの姿勢を解除し、こちらへ向き直る。
「ここに俺の世話をしてくれそうなメイドロボがいるしなぁ?」
「おい」
待機姿勢を取り続ける少女型のメイドロボに話しかける。
「はい、なにか御用でしょうか」
「お前のマスターは誰だ?」
「佐渡権蔵様、あなた様でございます」
なかなか賢いな。AIでも、目の前で起きた現象を把握できるものなのだろうか。
「いいえ、本AIでは本事象を判断し、ササノサキの身体へマスターが移っていることを判断することはできませんでした」
「では、なぜお前は判断できたんだ?」
「本機には、人間の意識がOSの一機能として組み込まれており、物事把握、判断にサブシステムとして利用可能です」
なるほど、このメイドロボの中にいる女の意識が、入れ替わりを判断したからAIもそれに従ったということか。
「ありがとうよ、サキちゃん」
「…」
メイドロボは反応しない。
おもしろくない。俺はメイドロボに命令を下す。
「首より上のセンサー系の優先権をサキへ回すんだ」
「了解しました」
一瞬の停止とともに、無機質だったメイドロボの顔が、キッとこちらを睨む表情に変わる。
「…あなた、なんてことを…!」
「なんてことを、とはこちらのセリフだ。俺の政治家人生をめちゃくちゃにしたのは君だろ。代償として君の身体をもらうよ」
「悪いことをしてたのはあなたでしょ!…くぅ、なんで身体が一切動かないの…!」
必死な顔をして自身の身体を動かそうとしているようだが、手を前にして待機状態の姿勢からぴくりとも動かない。
「君を廃棄するか、連れて行くかは迷っていたんだが…」
びくっ、とメイドロボの顔が一瞬恐怖で引きつる。
「…そんなの、いや。お願い、もとに戻して…」
「嫌だね、俺はそこのくたびれた身体に戻る気はさらさらない。ましてやメイドロボにもな。君があの身体に入りたい、というのなら考えてやってもいいが」
俺は元の身体を指差す。まだまだ若い、とは思っていたが、客観的に見ればシワも多く、皮膚もカサカサ、髪の毛も薄い。50という歳を感じられる身体だ。
20代、ピーク真っ只中のこの身体と比べれば、どれだけ老いていたのかが分かる。
「…」
「まあそれは後でいい、とりあえず服を持ってきてくれ。あのチューブに入る前に着ていたのがあるだろう?」
『命令受領しました。衣類の場所をサブシステムサキからロードしました』
口ではないところから、音声が発せられた。メイドロボの外部スピーカーだろうか。
「な、なんで私がそんな、ちょっと、勝手に…」
微動だにしなかった姿勢から一転、きびきびと部屋の奥へ歩いて行った。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
なんてこと、まさかあの男が私の身体を…。
私の意識とは関係なく、私の身体はロッカールームから自身の衣服を取り出し始める。
身体を動かしている感覚、手に衣服が触れる感触、それらはあたかも自分であるかのように感じられるが、一切自身の意思が反映されることはない。
歩みを止めようとしても、衣服を振り払おうとしても身体は意思に従わない。
微動だにせず、淡々と命令をこなしているだけだ。
このメイドロボに搭載されているAIは私の意識を判断に組み込んでいるらしい。
先程の音声から把握するに、マスター権限の判断も私の衣服の所在も、私の意識を読み取っているようだ。
まだ発展途上の研究の弊害…というかまさかこんな状況になるなんて想像できるわけがない。
一般に、AIには学習が必要である。
学習には、情報と正解を与える。
AIはその情報を元に膨大な試行回数を繰り返し、正解にいちばん近い結果をだした行動を覚え、実行するのだ。
故にAIに正解が与えられていない場合、AIは判断を正常にすることができない。AIが正解を自ずから予想することは難しい。
"扉に鍵がかかっていて、床に鍵が落ちている"
これは人間であれば経験から何をすればよいか分かるが、「扉を開ける」という正解が与えられていないAIは何も出来ない。似たような、例えば「窓を開ける」学習をしていれば可能かもしれない…人間であればそれは「経験」と呼ばれるものだ。
それをAIが簡単に利用できるとなれば…。「正解」は人間の意識から取れる、となれば。
(人類が夢見たAIが何でもこなせる世界が…。でも人間の意識を閉じ込めるなんてそんな)
この研究所は不老不死の研究をしていたはずが、恐ろしい物を作り出していたのではないだろうか。もはや真相は定かではないが。
…だが、どれだけ考えても、今の私にはもうどうにもできない。
今、『私の身体』は女性の衣服、下着を抱え、"私の身体"の元へと運んでいる。
私ができるのは考えることだけ。
どうやったら、自分の身体に戻ることができるか、である。
裸のまま、コントロールルームの中に立っている女性に服を差し出す。
「着せてくれ、女ものの服は着方がわからん」
『かしこまりました。着用方法をサブシステムサキからロードします』
「…」
"私の身体"に下着、ブラジャーをテキパキと着けていく。
「さっきから黙り込んでるな、もとに戻る算段でも練っているところか?」
「…」
この身体では自由に動けない。
直接元の身体へ戻るのは不可能だろう、権蔵は絶対にそれを良しとしない。
自由に動く身体…。視線をちらりと部屋の隅へやる。
そこにはヘッドセットをつけたまま床に倒れ込んだ男、権蔵の身体がある。
(嫌だけどあの体に入れば…私の身体を押さえつけて…)
「ふう、女の服ってのは窮屈なんだな」
白いブラウスに上下合わせたスーツ、タイトスカートを身に着けた私がそこにいる。
着替えさせが終わった私の身体は、再び手をヘソのあたりで重ね、待機状態へ移行する。
「しかもこのスカートとやらはほとんど足がひらけないじゃないか、歩きづらくて仕方ない」
がに股気味に足を開き、スカートの裾をどうにか伸ばせないかしている権蔵。
自身の身体が情けない、慎みの欠片もない体勢を取っているのを見ていることだけしかできず、悔しさだけが募る。
私は権蔵の身体に戻してくれ、と頼もうとする。
「あ、あの…そこの身体に…」
「ああん?身体…?ああ、人間の身体に戻りたいのか?」
「え、ええ!そう、そうです」
「さっきから考えていたんだが…君の意識を利用することで他のメイドロボより有利となれば、捨て置くには勿体ないと思わないかね」
ニヤリ、と私の顔が腹黒さを感じられる微笑みを作る。
権蔵は室内に置いてあるガラス器具を手に取ると、座り込んだままの男の体に向けて振り下ろす。
パリン!という大きな音とともにガラスが砕け散り、男の身体から赤い血がドクドクと流れ出す。
「な、なにを-…!」
「研究所からの連絡がなくなって1日、あの野郎がどんな馬鹿であってもここに何かがあったとバレているころだ。」
再び実験器具を手に取るとバキッと男の顔へ振り下ろす。
「だが、レポートを見る限り、お前がメイドロボに入っていることはここの研究所所員しかしらない、そしてその生き残りは…お前しかいない」
バキッっと再び振り下ろされる。
「佐野権蔵は恨みをもってこの研究所を襲い、暴れまわり、皆殺しにした。そして研究所には火を放ち、自殺。研究所所員は全員行方不明、研究内容も装置も焼失。その後、近くの建物に閉じ込められていた女性所員1名だけが救出…どうだろうか」
「そんな、もとに戻して…あやまります、お願い…」
「顔の制御権をAIに戻せ」
『了解』
顔が一瞬こわばると、無表情へ移行する。
私は視線を動かすことも、喋ることもできなくなる。
「で、さっき言ったことはできるのか」
『命令受領…エラー、建造物内に生命反応あり、本機体は人間へ危害を加える事を禁止されています』
「あん?ああ、この身体まだ生きてるのか」
権蔵は部屋に設置してある消化器を持ち上げ、頭へドスンと落とした。
グシャリ、という音とと共に床に血溜まりが出来る。
『実行可能、建造物内に生命反応なし』
「よし。火を放った後、お前も建物から離れてサスペンドモードへ移行しろ、俺が来るまでな」
『命令受領、では権造様、倉庫の方へ移動願います』
「ああ、もう1つ命令だ」
『なんでしょうか』
「俺のことは権蔵と呼ばず、身体の名前でよべ。えーと…ササノ、サキだったか」
『命令受領、今後マスターのことはサキ様とお呼びします。ではサキ様、倉庫の方へ』
夜の22時。明かりのない研究所から1体のメイドロボと、1人の女が出ていった。
---
あれから3年。
山奥の研究所で起きた事件は新聞の片隅に「製薬会社所有の研究所の事故」と「政治家、佐渡権蔵の死」いう大きな見出しで取り上げられたものの、それ以上深く報道されることもなく、あっという間に世間の記憶からは忘れ去られた。
「お、おい…俺をどうするつもりだ!?」
とある一室。
質のいいスーツを着た中年の男がカプセルの中からドンドンと叩く。カプセルから繋がれたケーブルは無機質なメイドロボに接続されている。
「サキ様。A0025号機にAI意識の書き込みを行いました」
モニタの前で作業をしていた女性が、後ろの方でふんぞり返って座っている女性に報告する。
「よし、では書き換えを開始する。A0001。作業を開始しろ」
「了解しました」
A0001、と呼ばれた女性は無表情なままキーボードを叩き始める。
「あっ、がっ…」
カプセルの中の男が一瞬苦しんだかと思うと、ぐったりと脱力する。
その数秒後、意識を取り戻したといった感じで目を開けた。
「A0025、人間体への書き込みに成功しました。またメイドロボ体にも意識の書き込みが成功しています」
「よし…。A0025。お前は今日から政治家石渡だ。いいな」
先程まで抵抗していたはずの男は、うやうやしく頭を下げる。
「はい、かしこまりました…サキ様」
サキの身体を奪った権蔵だが、その引き換えに失ったものはそれまでの政治家としての地位であった。
保険金や補償でサキとして生きていくに困らないだけの蓄えがあったが権蔵はそのまま隠居の道を選びたくはなかった。それは自分を貶めたあの男に敗北したことを意味するからだ。だが政治というものに縁がなかったサキという人間では政治家として返り咲くには、時間も労力もかかる。
権蔵は研究所から持ち去った技術資料と、メイドロボ…この身体の本来の持ち主であるサキが持っている知識を利用して復讐を企んだのだった。
まずはメイドロボを製造し、そのメイドロボに権力者たちの意識を閉じ込める。そして空いた身体にはサキに作らせた人間の脳に書き込めるAIモジュールをインストールすれば権蔵の手足となった政治家の完成だ。
サキと同型のA0002号を作成し、はじめに犠牲になったのは、権蔵をあの憎き政治家であった。そして次々とその派閥にいた政治家も同じように入れ替えていき、20名ほどいた敵対者たちを、権蔵の意思のままに動く物にすげ替えることに成功したのだった。
政治家を閉じ込めたメイドロボは、元の自分の身体の秘書として働かせている。いい気味だ。
権蔵は表舞台に自ら立つことなく、この国を制圧しつつあったのだった。
「A0001」
「はい、サキ様」
権蔵は作業をしていたA0001…サキを閉じ込めているメイドロボを呼ぶ。
この3年で大分酷使しすぎたのか、可動部からモーターやサーボの音や金属が擦れ、軋む音が聞こえるようになってきた。
最新型と比べれば機能も少なく、バッテリー稼働時間もいまいちだ。
「今日から俺の世話はA0025に任せる。今までご苦労だった」
ぴしっと姿勢よく立っていたメイドロボの手がピクっっと動いた気がした。
「そうですか。サキ様。いままでありがとうございました」
ギギッと少し錆びつかせた音を関節から発生させながら、深々とお礼をこちらにしてくる。
くくっと権蔵が下品な笑いを漏らす。
これから捨てられるというのに、律儀なことだ。
サキの知識部分はすでに移植が完了しており、新しいA0025はサキの人格なしでその知識が利用可能となっている。
そもそもこの3年で技術レベルも大幅に更新され、その知識が重宝されることはもはやない。
「サキの人格をロード。いろいろ役に立ったからな。最後に望みを聞いてやろう。お前はどうなりたい」
サキの人格を表に出してもメイドロボの表情は変わらない。
3年も自分の意思で動けず、自分の身体を世話し続ける光景を眺めさせられれば、その心が壊れるのも当然か。
「…もどして、もどして、もどして…もどして…」
「ふん、つまらん。これじゃあどちらが機械かわからんな」
"もどして"としか言わない人形に興味がなくなったのか、権蔵は電話をかける。
その数分後、A0001は数人の男たちによって電源をオフにされ、外へ運ばれていったのだった。
---
10年後。
工事をしている道路の先にキィッ、キィッっと軋んだ音をたてながら黄色に光る棒を持って右手を振り続けている古びたロボットがそこにいた。かつてA0001と呼ばれたメイドロボだ。
その中にサキ、という女性の意識が閉じ込められていることなど誰も気が付かなかった。
左腕は何かが勢いよくぶつかったような跡があり、腕の途中からケーブルや骨格がむき出しになったままぶら下がっている。
バランサーが壊れて、まともに立てなくなった脚はすでに撤去され、かわりにカカシのように柱にくくりつけられている。
声帯ユニットは何者かに剥ぎ取られてしまい、声を出すことはない。
交通安全、と書かれた薄汚れた反射材のついたベストを着たまま、無表情で手を振り続ける。
その横をびゅんびゅんと車は通り過ぎていく。
1台。
若者が乗っていた車が、前方不注意で回避が遅れた。
ガシャーン!
大きな音をたてて車のボンネットが凹む。
ロボットの頭と胴体、そして手が分解してバラバラになって空を舞う。
事故をした男が、聞こえるはずのない声を聞いたという。
「……ありがとう」と。
2019/09/08
魔法使いの姉はめんどくさがり
僕の姉は魔法使いだ。
魔法使い、という言い方が正しいかどうかはわからない。
なぜなら姉以外にこんな不思議な力が使える人を見たことはないからだ。
魔法、以外に例えようがないので僕は心のなかでそう呼んでいる。
姉の魔法があれば世界は変わるのではないか、と思う。
一瞬で他の場所へ行ったり、物を作り出したり。
1日に使える回数が決まってるのよ、とはいっているがそれでも世界はひっくり返るだろう。
だが、姉はそういうことをしない。
家族以外にその魔法の力を見せびらかすようなことをしなかったのだ。
親も平穏を望む姉の願いを叶えるためにその力に頼るようなことをしていない。
僕の姉はめんどうくさがりだ。
怠惰という言い方が正しいだろう。
彼女はなにをするにもやる気がなさそうに動く。
昔、ご飯を食べるのもめんどくさがって、直接胃に栄養分を転送させているのを見たことがある。
その姉は最近さらにその怠惰を加速させてしまったのだ。
「…姉ちゃん起きてる?」
姉の部屋の扉を開けて僕はふう、とため息をつく。
僕と姉の部屋は隣同士で、夕飯を食べ終えた僕は部屋に戻る前に姉の様子を確認するのが日課だ。
「んあ。起きてるよー」
「今日もその恰好なんだね…」
「んーこのほうが楽だしー」
ベッドの上に寝転がっているのは大きなぬいぐるみ。
姉の姿に似たそのぬいぐるみは、うつ伏せで本を読みながら不思議なことにパタパタと脚を動かしている。そして姉の声はそのぬいぐるみから聞こえている。
…そう、姉は自分の魂を、自分に似たぬいぐるみに移しているのだった。
「もう。びっくりするからやめてよ…」
僕は今でこそなれてきたが、最初はもふもふの大きなぬいぐるみが、もぞもぞと動いているのをみて腰を抜かしたものだった。
…あのときは部屋が暗かった、というのもあるが。
「えーでも。この格好だとお腹減らないし…」
そう、面倒くさがりな姉は食事すら面倒臭がる。
お腹の減らない無機物に変身して本を読み続けるのが趣味になっている。
「汚れないしー」
ぬいぐるみは汗のような分泌物は一切でない。
お風呂を面倒臭がる彼女にとってその身体は好都合なのであった。
世界を変える可能性をもっていた姉は、その力を自分の怠惰のためだけにつかっているのだった。
「トイレいかなくてすむし」
食べなければ出ない。
…そもそも排泄をするための器官をぬいぐるみは備えていないのだが。
「とはいえ…」
ちらり、と部屋の隅にまるで物のように置かれている"姉"を見る。
「自分の身体をここまでぞんざいに扱えるなんて…」
足を広げたまま壁にもたれかかり、虚ろな視線を天井に向けている"姉"の身体だ。
姉の魔法でこの身体の時は停止している。
まばたきもしなければ呼吸もしていない。
まるでマネキンのように放置されているのだった。
「んー?別にいいじゃない。自分の身体をどう扱おうと」
「そりゃそうなんだけど…」
身内の贔屓目ではあるかもしれないが、姉の容姿はかなりよい。
そんな美少女といって差し支えない姉が、身動きを一切せず物のように置かれているのは…もやもやするものがある。
「っていうか最後に戻ったのいつ?」
「えー?先月?…いやもっと前かな?忘れちゃった」
そういう僕も、この姉が最後に動いているのを見たのはいつか、正確には思い出せない。
「ほら…埃かぶり始めてるじゃん」
キレイな黒髪の上にうっすらと白い繊維のクズがたくさん。
手でぱっぱと払うとふわりと舞い上がる。
「いくら時を止めてるからってホコリとか汚れみたいなのはつくんだよ?ほら、この服もちょっと黄ばんできてる」
「んもー。うるさいなあ。我が弟くんは」
読書の邪魔をされて苛立ったのか姉は本をパタン、と閉じる。
「そんなにいうならその身体、綺麗にしといてよ」
「え?拭いたりはしてるよ?」
「いやいや、そうじゃなくて」
ぬいぐるみの手がポン、と柏手を打つような体制をとった。
目に見えない力がそこに発生したのが、なぜかわかった。
「はい、あとはよろしくー」
「え…?」
姉のぬいぐるみは再びベッドに横になって読書を再開し始めた。
いったいなにがおきたのだろうか?
ふと、僕は壁にもたれかかってる"姉"の身体を再び見た。
「ってえええ?」
"姉"の身体だったその置物は、いつもまにか別のものにすり替わっていた。
髪の毛は短いし、身長…体型は一回り小さい。
姉に似たその顔つきの人物は…
「え?僕?」
え?じゃあ今の自分は…。
ふと、隣の姿見に目をやる。
そこには久しぶりに動いている姉の姿があった。
「え?え?」
「もう、うるさい!さっさと綺麗にしてきて」
そこらじゅうから何かが飛んできて僕の顔や身体に巻き付く。
そして背中を謎の力で押されて部屋から追い出された。
床に落ちているのは姉の着替えとバスタオル。
「…まさか自分の身体を人に洗わせるなんて」
一体どこまで怠惰なんだろう。
僕はため息を付いて、着替えとタオルを拾う。
姉の部屋ドアをノックしても返事はないし、ドアは開かない。
どうやら事を済ませるまで、姉は僕の身体を人質にしているようだ。
「まったく…とんでもない姉だよ」
再び僕は深くため息を付いてバスルームをトボトボと歩き出した。
魔法使い、という言い方が正しいかどうかはわからない。
なぜなら姉以外にこんな不思議な力が使える人を見たことはないからだ。
魔法、以外に例えようがないので僕は心のなかでそう呼んでいる。
姉の魔法があれば世界は変わるのではないか、と思う。
一瞬で他の場所へ行ったり、物を作り出したり。
1日に使える回数が決まってるのよ、とはいっているがそれでも世界はひっくり返るだろう。
だが、姉はそういうことをしない。
家族以外にその魔法の力を見せびらかすようなことをしなかったのだ。
親も平穏を望む姉の願いを叶えるためにその力に頼るようなことをしていない。
僕の姉はめんどうくさがりだ。
怠惰という言い方が正しいだろう。
彼女はなにをするにもやる気がなさそうに動く。
昔、ご飯を食べるのもめんどくさがって、直接胃に栄養分を転送させているのを見たことがある。
その姉は最近さらにその怠惰を加速させてしまったのだ。
「…姉ちゃん起きてる?」
姉の部屋の扉を開けて僕はふう、とため息をつく。
僕と姉の部屋は隣同士で、夕飯を食べ終えた僕は部屋に戻る前に姉の様子を確認するのが日課だ。
「んあ。起きてるよー」
「今日もその恰好なんだね…」
「んーこのほうが楽だしー」
ベッドの上に寝転がっているのは大きなぬいぐるみ。
姉の姿に似たそのぬいぐるみは、うつ伏せで本を読みながら不思議なことにパタパタと脚を動かしている。そして姉の声はそのぬいぐるみから聞こえている。
…そう、姉は自分の魂を、自分に似たぬいぐるみに移しているのだった。
「もう。びっくりするからやめてよ…」
僕は今でこそなれてきたが、最初はもふもふの大きなぬいぐるみが、もぞもぞと動いているのをみて腰を抜かしたものだった。
…あのときは部屋が暗かった、というのもあるが。
「えーでも。この格好だとお腹減らないし…」
そう、面倒くさがりな姉は食事すら面倒臭がる。
お腹の減らない無機物に変身して本を読み続けるのが趣味になっている。
「汚れないしー」
ぬいぐるみは汗のような分泌物は一切でない。
お風呂を面倒臭がる彼女にとってその身体は好都合なのであった。
世界を変える可能性をもっていた姉は、その力を自分の怠惰のためだけにつかっているのだった。
「トイレいかなくてすむし」
食べなければ出ない。
…そもそも排泄をするための器官をぬいぐるみは備えていないのだが。
「とはいえ…」
ちらり、と部屋の隅にまるで物のように置かれている"姉"を見る。
「自分の身体をここまでぞんざいに扱えるなんて…」
足を広げたまま壁にもたれかかり、虚ろな視線を天井に向けている"姉"の身体だ。
姉の魔法でこの身体の時は停止している。
まばたきもしなければ呼吸もしていない。
まるでマネキンのように放置されているのだった。
「んー?別にいいじゃない。自分の身体をどう扱おうと」
「そりゃそうなんだけど…」
身内の贔屓目ではあるかもしれないが、姉の容姿はかなりよい。
そんな美少女といって差し支えない姉が、身動きを一切せず物のように置かれているのは…もやもやするものがある。
「っていうか最後に戻ったのいつ?」
「えー?先月?…いやもっと前かな?忘れちゃった」
そういう僕も、この姉が最後に動いているのを見たのはいつか、正確には思い出せない。
「ほら…埃かぶり始めてるじゃん」
キレイな黒髪の上にうっすらと白い繊維のクズがたくさん。
手でぱっぱと払うとふわりと舞い上がる。
「いくら時を止めてるからってホコリとか汚れみたいなのはつくんだよ?ほら、この服もちょっと黄ばんできてる」
「んもー。うるさいなあ。我が弟くんは」
読書の邪魔をされて苛立ったのか姉は本をパタン、と閉じる。
「そんなにいうならその身体、綺麗にしといてよ」
「え?拭いたりはしてるよ?」
「いやいや、そうじゃなくて」
ぬいぐるみの手がポン、と柏手を打つような体制をとった。
目に見えない力がそこに発生したのが、なぜかわかった。
「はい、あとはよろしくー」
「え…?」
姉のぬいぐるみは再びベッドに横になって読書を再開し始めた。
いったいなにがおきたのだろうか?
ふと、僕は壁にもたれかかってる"姉"の身体を再び見た。
「ってえええ?」
"姉"の身体だったその置物は、いつもまにか別のものにすり替わっていた。
髪の毛は短いし、身長…体型は一回り小さい。
姉に似たその顔つきの人物は…
「え?僕?」
え?じゃあ今の自分は…。
ふと、隣の姿見に目をやる。
そこには久しぶりに動いている姉の姿があった。
「え?え?」
「もう、うるさい!さっさと綺麗にしてきて」
そこらじゅうから何かが飛んできて僕の顔や身体に巻き付く。
そして背中を謎の力で押されて部屋から追い出された。
床に落ちているのは姉の着替えとバスタオル。
「…まさか自分の身体を人に洗わせるなんて」
一体どこまで怠惰なんだろう。
僕はため息を付いて、着替えとタオルを拾う。
姉の部屋ドアをノックしても返事はないし、ドアは開かない。
どうやら事を済ませるまで、姉は僕の身体を人質にしているようだ。
「まったく…とんでもない姉だよ」
再び僕は深くため息を付いてバスルームをトボトボと歩き出した。
2019/09/02
特殊クエストで金属化
突如目の前に大きく表示された特別クエストの文字。
このゲームでは無数にあるクエストからランダムでプレイヤー別にクエストが配布されることがある。
レアなイベントであればもちろん報酬も特別であり、みんな優先的に消化しているものだ。
(表示されたピンはこのへんだけど…)
このゲームでは無数にあるクエストからランダムでプレイヤー別にクエストが配布されることがある。
レアなイベントであればもちろん報酬も特別であり、みんな優先的に消化しているものだ。
(表示されたピンはこのへんだけど…)
2019/09/01
9月の支援作品
9月の支援作品です。
多分全年齢。
レンタルボディの設定を利用したシェアワールドストーリーですが、レンタルボディが実用化される前の研究段階でごく一部だけに利用されていた…という設定です。
高校生を娘にもつ父親の清彦が、とある出来事によって同じ年頃・性別のボディになってしまったら?
そんなお話です。
以下少しサンプル
多分全年齢。
レンタルボディの設定を利用したシェアワールドストーリーですが、レンタルボディが実用化される前の研究段階でごく一部だけに利用されていた…という設定です。
高校生を娘にもつ父親の清彦が、とある出来事によって同じ年頃・性別のボディになってしまったら?
そんなお話です。
以下少しサンプル
2019/08/29
水着な1日(後編)
夏休み直前の日差しはまっすぐ突き刺さり、容赦なく温度を上昇させていく。
教室に冷房が入るようになったとはいえ、その設定温度と生徒の人数のせいで涼しいという感覚からは程遠い。
さらに…。
(ぐ…む…ぬぬぬ…)
アコは密閉された空間で暑さに苦しんでいた。
冷房から発せられる冷気は制服に阻まれて一切入ってこない。
そのうえ自分の身体にピッタリと張り付いたまま身動きできないのだ。アコの身体は伸縮性の高い水着となっており、持ち主の身体の凹凸を少しも逃さず覆っている。
そして水着は基本速乾性を持っていた。水を吸いやすく、そして乾きやすい生地で構成されているのだ。
水着の裏地に接した皮膚から溢れ出るように出てくる汗は、その裏地を通って表面を濡らして、外部へ発散していく。
自分の汗が身体を通過していく感覚にアコは悶絶する。
(暑いし…!蒸し蒸しするし…!くさいし!)
口や鼻、目の組織がないというのに、鼻はひん曲がりそうで、口や目はその空気で痺れてしまいそうだ。
人間の身体から出た汗は最初は無臭にちかいが、しばらくすると空気中の菌が入り込み繁殖して臭いを出すようになる。
周りからは全く気が付かれないような、ほんのかすかな量ではあったが、密着しているアコにとっては拷問に等しい臭いとなった。
(だいたい…私の真似をしているこいつは…一体誰なの)
私に成り代わって、授業を受けているのだ。
その振る舞いは私にそっくりで、クラスメイトは誰も気が付かない。いや、誰もまさかこんなことになっているなんて思いもしないだろうが。
身動きできず悶々としているとようやくチャイムが聞こえた。
(…やっと1限目が終わったの…?)
一息つくまもなく、”私"は友人たちと一緒にワイワイと話しながら移動を始める。そう、2限は水泳なのだ。
「え、なにアコ。水着着てきてん」
「ウケる。小学生かよー」
「えっへっへ」
(気がついてよー。私はここだよー)
喋ろうとしても口の感覚は一切ない。
仕方なく心で強く念じるが、それは徒労に終わる。
シュルシュルと衣擦れの音とともに、視界が広がった。
やはりというかそこは見慣れた更衣室だった。
(うー。暗闇だからアレだったけど…)
視界がはっきり見えるのに動けないというのは、やはり不安にさせる。手足の感覚すら失われ、感じられるのは水着が触れている部分…自分の身体の輪郭のみ。
1ミリも動かせない繊維の身体は、"私"の柔軟体操に合わせてギュギュっと伸縮する。
準備体操がおわり、順番に皆が列をなして25mのプールを片道で泳ぎ始める。
ドボン、と水に入る音とともに、身体中に水が染み込み重くなる感覚。
身体が数倍以上に重くなった気がする。
そして25mを泳ぎ終わってプールから上がるときに、染み込んでいた水が、重力に従って身体中をつたって太ももの付け根から出ていく感覚に悶そうになる。
(あ、あひっ…ちょ。ちょっともうちょっと…ゆっくりあがって…)
そんなお願いも"私"には届くことはなく、全力で泳がれ、全力でプールサイドに上がるのことを繰り返された。
(や…やっと…終わった…)
全身が何度も何度も洗われるような拷問もようやく終わり、"私"たちは再び更衣室へ向かっていく。
私はそのときまで失念していたのだ。
そう、水泳が終われば自分が脱がされてしまうことを。
ぐいっと肩紐を引っ張られ、肩から外される。
脇の部分を捕まれそのまま力任せ下に引っ張られる。
スポン、という感じで私は"私"の身体から引き剥がされた。
身体の中に入っていた"芯"を失った私の身体はくしゃくしゃになって小さく小さくなってしまう。
(えっ、ちょっと…まっ…)
目まぐるしく変わる風景、私が最後に見たのは使ってたバスタオルの生地だった。
(ぐにゅ…)
水切りもほどほどのままに、私はタオルと一緒に水泳バッグの中へ突っ込まれる。
塩素の匂いが時間が立つにつれ、水が腐っていくような匂いで充満していく。
(う…軽く水洗いしたほうがいいって…このことなのね)
先日の母親の小言を思い出してしまう。
その後、私はそのままとうとう気を失ってしまったのだった。
---
(はっ…?)
気がついてガバっと身体を起こす私。
「手…がある?」
目の前で手をニギニギする。
パチパチと瞬きをしてみる。立ち上がって片足をあげてみる。
間違いなく自分の身体だった。
「夢…だったの?」
それにしてはリアルな感覚だった。
あの授業中の空気、泳ぎの感覚、そして匂い。
すべてが現実だったように感じる。
「…ま、そんなことないか」
ふと、なにやら視線を感じて壁の方に目をやる。
そこには母親がやっておいてくれたのだろう、水着の陰干しがされていた。
「…ま、まあ。塩素まみれでほっとくと生地悪くなっちゃうもんね」
明日からちゃんと水洗いして、家に戻ったらすぐに洗濯置き場に置いておこう。
そんな気持ちになったアコなのであった。
………
……
…
「あー。学校なんて20年ぶりだったから楽しかったわぁ」
アコが寝ていた階下で、楽しそうにつぶやいたのは母親。
自分の娘の魂を水着に閉じ込めて、代わりに自分がアコの身体へ入っていたのだ。アコのことは十何年も見ているし、友人関係も把握している母親はボロを出すことなく1日アコを演じきったのだった。
「10代の若い身体はいいわねえ。体力無限って感じで…。またなにかあったらお仕置きしちゃおうかしら、うふふ」
教室に冷房が入るようになったとはいえ、その設定温度と生徒の人数のせいで涼しいという感覚からは程遠い。
さらに…。
(ぐ…む…ぬぬぬ…)
アコは密閉された空間で暑さに苦しんでいた。
冷房から発せられる冷気は制服に阻まれて一切入ってこない。
そのうえ自分の身体にピッタリと張り付いたまま身動きできないのだ。アコの身体は伸縮性の高い水着となっており、持ち主の身体の凹凸を少しも逃さず覆っている。
そして水着は基本速乾性を持っていた。水を吸いやすく、そして乾きやすい生地で構成されているのだ。
水着の裏地に接した皮膚から溢れ出るように出てくる汗は、その裏地を通って表面を濡らして、外部へ発散していく。
自分の汗が身体を通過していく感覚にアコは悶絶する。
(暑いし…!蒸し蒸しするし…!くさいし!)
口や鼻、目の組織がないというのに、鼻はひん曲がりそうで、口や目はその空気で痺れてしまいそうだ。
人間の身体から出た汗は最初は無臭にちかいが、しばらくすると空気中の菌が入り込み繁殖して臭いを出すようになる。
周りからは全く気が付かれないような、ほんのかすかな量ではあったが、密着しているアコにとっては拷問に等しい臭いとなった。
(だいたい…私の真似をしているこいつは…一体誰なの)
私に成り代わって、授業を受けているのだ。
その振る舞いは私にそっくりで、クラスメイトは誰も気が付かない。いや、誰もまさかこんなことになっているなんて思いもしないだろうが。
身動きできず悶々としているとようやくチャイムが聞こえた。
(…やっと1限目が終わったの…?)
一息つくまもなく、”私"は友人たちと一緒にワイワイと話しながら移動を始める。そう、2限は水泳なのだ。
「え、なにアコ。水着着てきてん」
「ウケる。小学生かよー」
「えっへっへ」
(気がついてよー。私はここだよー)
喋ろうとしても口の感覚は一切ない。
仕方なく心で強く念じるが、それは徒労に終わる。
シュルシュルと衣擦れの音とともに、視界が広がった。
やはりというかそこは見慣れた更衣室だった。
(うー。暗闇だからアレだったけど…)
視界がはっきり見えるのに動けないというのは、やはり不安にさせる。手足の感覚すら失われ、感じられるのは水着が触れている部分…自分の身体の輪郭のみ。
1ミリも動かせない繊維の身体は、"私"の柔軟体操に合わせてギュギュっと伸縮する。
準備体操がおわり、順番に皆が列をなして25mのプールを片道で泳ぎ始める。
ドボン、と水に入る音とともに、身体中に水が染み込み重くなる感覚。
身体が数倍以上に重くなった気がする。
そして25mを泳ぎ終わってプールから上がるときに、染み込んでいた水が、重力に従って身体中をつたって太ももの付け根から出ていく感覚に悶そうになる。
(あ、あひっ…ちょ。ちょっともうちょっと…ゆっくりあがって…)
そんなお願いも"私"には届くことはなく、全力で泳がれ、全力でプールサイドに上がるのことを繰り返された。
(や…やっと…終わった…)
全身が何度も何度も洗われるような拷問もようやく終わり、"私"たちは再び更衣室へ向かっていく。
私はそのときまで失念していたのだ。
そう、水泳が終われば自分が脱がされてしまうことを。
ぐいっと肩紐を引っ張られ、肩から外される。
脇の部分を捕まれそのまま力任せ下に引っ張られる。
スポン、という感じで私は"私"の身体から引き剥がされた。
身体の中に入っていた"芯"を失った私の身体はくしゃくしゃになって小さく小さくなってしまう。
(えっ、ちょっと…まっ…)
目まぐるしく変わる風景、私が最後に見たのは使ってたバスタオルの生地だった。
(ぐにゅ…)
水切りもほどほどのままに、私はタオルと一緒に水泳バッグの中へ突っ込まれる。
塩素の匂いが時間が立つにつれ、水が腐っていくような匂いで充満していく。
(う…軽く水洗いしたほうがいいって…このことなのね)
先日の母親の小言を思い出してしまう。
その後、私はそのままとうとう気を失ってしまったのだった。
---
(はっ…?)
気がついてガバっと身体を起こす私。
「手…がある?」
目の前で手をニギニギする。
パチパチと瞬きをしてみる。立ち上がって片足をあげてみる。
間違いなく自分の身体だった。
「夢…だったの?」
それにしてはリアルな感覚だった。
あの授業中の空気、泳ぎの感覚、そして匂い。
すべてが現実だったように感じる。
「…ま、そんなことないか」
ふと、なにやら視線を感じて壁の方に目をやる。
そこには母親がやっておいてくれたのだろう、水着の陰干しがされていた。
「…ま、まあ。塩素まみれでほっとくと生地悪くなっちゃうもんね」
明日からちゃんと水洗いして、家に戻ったらすぐに洗濯置き場に置いておこう。
そんな気持ちになったアコなのであった。
………
……
…
「あー。学校なんて20年ぶりだったから楽しかったわぁ」
アコが寝ていた階下で、楽しそうにつぶやいたのは母親。
自分の娘の魂を水着に閉じ込めて、代わりに自分がアコの身体へ入っていたのだ。アコのことは十何年も見ているし、友人関係も把握している母親はボロを出すことなく1日アコを演じきったのだった。
「10代の若い身体はいいわねえ。体力無限って感じで…。またなにかあったらお仕置きしちゃおうかしら、うふふ」
2019/08/28
あなたもこれで美しく?
動画を見ているときに挟まれた広告に表示されたそんな陳腐な文言。
スキップしようとした私は、ついタップする位置がずれてその広告を開いてしまった。
画面があれよあれよという間に2-3回切り替わり、通知バーにダウンロードアイコンが表示された。
「えっ…インストールされちゃったの?」
その掟破りな動作が気になった私はそのアプリを立ち上げてみることにした。
「美しくしたい箇所をタップしてください」
起動して表示されたのはそんなフレーズと…なんと私。
3D化した私がその画面の中でくるくるとゆっくり回転をしていた。
まるでゲームのチュートリアルみたいな表示だ。
少し気味が悪いながらも、興味が湧いた私は試しに顔をタップして見る。
ぐぐっとアップになった私の顔。
女性らしさは感じられるが、平ぼったい特徴のない顔だ。
「一重なのがねえ」
目をタップしてみる。
そこには大量の項目が表示されたのだ。
「うわっ…すご」
その表示された項目から、気になっている項目をタップして変更していく。
二重。目の大きさを大きく、左右の目の距離を調整、まつ毛の増量…
目が変わるだけでも大分見た目がすっきりするものだ。
「…うわぁ…いいなあ。これ、美容整形のアプリなのかな?」
こんなふうになれます!○○整形外科まで!みたいな。
そんなことをぼんやり思いながら右下に表示された確定ボタンを何気なく押す。
すると画面中央になにやら大きなアラートウィンドウが表示される。
どうせセーブデータを作成するとか上書きするとかそんなものだろう、と思った私は特に読まずにOKボタンをタップしたのだった。
「ひっ」
その瞬間、目がじわっと熱くなるのを感じた。
ぐぐぐ、と皮膚が引っ張られるような感覚と、瞼がむず痒さを感じながら重たくなっていう。
「な…なんだったの…」
慌てて化粧鏡を覗き込む私。
そこには…、先程調整した通りの目になった私がいたのだった。
「えっ…嘘っ…」
パチパチ、と鏡の間でまばたきをしてみる。
その二重で大きくてつぶらになった瞳、素で長い睫毛が動く。
「こ…このアプリ…もしかして」
スマホを慌てて見る。
その魔法みたいなアプリはまだそこにあった。
---
1時間後。
私はまるで別人になっていた。
身長は180cm、スラっと伸びた脚は日本人離れしており、お尻はツン、と突き出している。
キュっとくびれたウェスト、そして男性なら絶対目が言ってしまう胸には、手術をしたような人工的なものではない、天然のふくよかな胸がそこにはある。
艷やかな長い髪、そしてハーフ芸能人顔負けの"私"という面影は一切ない絶世の美女だった。
テレビや雑誌に出ていてもおかしくない、いやむしろ出ていないとおかしいレベルだ。
これで化粧を一切していないのだからその美貌たるや…だ。
「あー。しまった…」
身長も体型も別人になってしまったために外に着ていける服が存在しない。
「とりあえず通販で…っと」
最低限の服を通販でお急ぎ購入する。
明日届いたら、それを着て街に出ていけば好きな服を揃えられるだろう。
私は数時間の間、その鏡の前で自分の変身を楽しむのだった。
Brrrr.
スマホが震える。
なんだろうと思って開いてみるとアプリケーションからの通知だった。
変更度MAXの状態で変化ポイントが既定に到達しました。
強制消化モードに入ります。
累積ポイント 720 / 720
もしかして有料だった…?
そして更に表示されるメッセージ。
スマホを安全な場所に置いてください。
…一体どういうことだろう。
私はスマホをテーブルの上に置く。
ドクン
身体の中でなにか、うねるような感覚。
その感覚は、体の中心からじわりと広がっていく。
「な、なに…?あ、あぐぁっ!?」
口が急にパカ、とあいたかと思うとぐぐぐ、とその口が左右に伸びていく。
目がグリグリと動き出したかと思うと、視野が狭くなり、視力が大きく下がって視界がぼやけていく。
ギュルルル。
すごい勢いでその大きな乳房から何かが抜け出していく。
大きく、形のよかった乳房はしぼんでいき、だるんとたるんだ皮とすこし脂肪が詰まった情けない形となっていく。
ジュっという熱とともに手の指が大きく膨張し、指の太さが3倍ほどに、長さが半分ほどに変化した。
何が起きているかわからない、混乱しながら姿見を見ればそこにはくびれたウェストはなく、風船のように膨れ上がり、その脂肪が積み重なって段を形成した醜い三段腹が形成されていた。
ブツブツブツ…
身体のいたるところで何かが植え付けられ、そして成長していく。
あっというまに身体中から縮れた毛が生え始め、そのシミ一つなかった皮膚は、ボロボロでまだらになった汚い雑巾のようになった。
(ま…まさか。これって)
お尻は更に大きくなっていく。
だがそれは全体的に脂肪が乗っており、綺麗に突き出ていたヒップはその脂肪の山に埋もれていってしまう。
首周りにも、スライムのようにぶよぶよとした脂肪がまとわりつく。
「ぜぇ…ぜぇ…」
ただただ立っているだけなのに息が切れる。
身体中が蒸すように暑い。
180cmあったはずの私は、圧縮機でプレスされたかのように潰されて140cmほどまで縮んでいた。…体型だけはお相撲さん…いやそれ以上に脂肪がまとわりついており、その体型のシルエットは漫画でよく見るとぐろを巻いたウンコのようだ。
顔も脂肪で埋もれているし、目は小さく、鼻は潰れ、口は化け物のように裂けている。
Brrrr.
「変化が完了しました。 残り時間 719 / 720」
その残り時間は1分で1ずつ減少していく。
スマホに表示されていた時計を確認すると、私がこのアプリを弄り始めてから半日が経過していた。
(まさか…変身した時間と同じ時間だけ…こんな格好にされるってこと?)
姿見に写っているのは身体中がぶよぶよとなった醜い人間だった。
細い鏡にはその全身が映しきれないほど、横に大きく肥えてしまっている。
(うっそ…。え。まさか12時間もこのまま…?)
太く短くなった指で、スマホをたどたどしく操作してみるが、
キャンセルボタンが表示されていないアプリをみて愕然とする。
立っていることに疲れてしまった私は地面にべったりと座り込んで考える。
全身の脂肪がダルン、と地面にまで垂れ下がる。まるで道に落ちた溶けかけのアイスクリームのようだ。
そのみっともなさの代わりに、身体中にのしかかっていた脂肪の重量はすこし軽減された。
(…でも…そうよね。これを我慢すればあんな美女になれるんだよね…)
おそらく美女になっている時間とおなじ時間だけ人前に出られない身体にされるということなのだ。そしてその時間は12時間まで。
この数字が戻ればまた美女にもなれるの…よね。
腕も脚も数倍にまで膨れ上がって、まるで大きな肉襦袢を着せられたような動きしかできない。
そしてこの状態ではもう立ち上がれないことに気がつく。
脚の筋力だけでこの身体を持ち上げることができず、そして手が短くない過ぎてテーブルやベッドに届かないのだ。
「あっ」
大量ににじみ出てきていた手の汗でスマホが滑り落ちる。
床に転がったスマホを拾おうとするが…。
「ふんっ…ふんっ…」
だめだ。身体がピクリとも動かせない。
それなのに、動こうとした結果身体から発せられた熱量が、さらに蒸し暑くしていき、あっという間に体力を削られていく。
ああ。だめ。
意識が朦朧として…。
---
「えー。相澤さんもう帰っちゃうの?」
「もうちょっと飲んでいこうよ。次の店も予約してあるのにー」
「ごめんね!用事があるんだー」
そういって店を足早に出る。
店の中からは嘆きの声と、あの子は身持ちが硬い、みたいなセリフが聞こえる。
(そういうわけじゃないんだけどね)
私だって残れるものなら残りたい。
チヤホヤされるし、みんな優しくしてくれるし。
"私"という面影を残しつつ美女となることで私は素敵な人生を過ごすことができている。
アパートに戻った私はスマホを取り出す。
700 / 720
残り20分。
今日は午前中は女友達でブティックを周り、夕方から合コンだったのだ。
そのため、二次会など行く予定はなく、時間はギリギリだった。
これ以上あの場に残っていたら、私は二度と表を歩けないような姿を皆に見せつけることになってしまう。
裸になった私は手動で消化モードに切り替える。
あっという間に私は醜女に変化した。
「…ふーん、そういうことだったんだ」
私は慌ててその視界を扉へ向けるとそこには先程の飲み会で一緒だった友人が1人立っていた。
「急にきれいになったし、でもすぐに帰るから彼氏でもいるのかなーとおもって尾けてみれば…まさかこんなことだったなんてね」
しまった、施錠を忘れていたのか。
酔っていたのか浮かれていたのか、つけられていることにすら気が付かなかった私。
慌てて彼女に近寄ろうとするが、この身体は微動だにできない。
「へー、なるほどなるほど。このアプリなのね。っていうかくっさ」
鼻をつまみながら、テーブルに置かれていた私のスマホを奪われる。
「へー。不思議なアプリねえ。でもこんなインチキできれいになって、私達を引き立てにつかってたのね」
「ま、いいわ。このスマホは預かっておくわね」
「え、ちょっとまって…」
そういいながら部屋から出ていく。
肉団子になってしまっている私は、この部屋から出ることはもちろん、立つこいとしかできないのだ。
その後姿を眺めるしかなかった。
---
翌朝。
気がつけば私は元の、普通の身体となって床で横になっていた。
あの身体はもちろん、今のこの平々凡々とした身体も嫌いだった私は、いつもならスマホですぐに変身していたのに。
「…帰してもらわなきゃ…」
立ち上がって着替えを探す。
いま、クローゼットに入っているのは変身した私にピッタリの服ばかりだ。
仕方なく奥のダンボールに仕舞っておいた私の服を取り出す。
「…連絡…あ、スマホが」
そうだった。彼女にスマホをもっていかれてしまったのだった。
どこに住んでいるのかはわかっている。
いるかどうかわからないが直接連絡無しで向かうしかなさそうだ。
ぶにっ。
「えっ…?」
足元で違和感。
恐る恐る見ると、脚がぶにぶにと膨れ上がっていくところだった。
「え…うそっ…なんで…・っ」
昨日のうちに消化モードを済ませていたはず。
そんな考えを否定するかのように、身体がブクブクと膨れ上がっていく。
あっという間に私は昨日の夜と同じような消化モードの体型に変化したのだった。
「うっ…なんで…?」
「おっはよー。あっは。やっぱり変化してる」
そういいながら部屋に入ってきたのは昨日の友人だった。
手には私のスマホが握られている。
「なんで…私…?」
「あっはっは…えっ?ああ、気になるわよね。はい、これ」
スマホの画面を見せられる。
「えっ…」
そこに表示されたのは
変身中という文字と、増えていく変化ポイントだった。
「まさか」
「そうよ。あなたの美女設定を醜女設定に変えてあげたの」
「ちょ…ちょっとそんな」
変身モードも一緒の姿にされたってこと?
そんなことをしたら。
「12時間このまま放置して…そしたら消化モードよ」
「えっ…」
「そしてそのループ」
「…うそよそんな」
「インチキして、私達を見下して楽しかった?そんなの許されるわけ無いでしょ。その報いよ」
私はその後、友人の通報により自身で身動きできなくなるまで太ってしまったという体裁で特殊な施設へ閉じ込められる。
24時間身動きできない身体で、介護をされるという屈辱。
誰も私の言うことを信じてくれない。
スマホはとうとう、私の手元には帰ってこなかった。
-終-
2019/08/23
だんだん、徐々に、着々と。(5)
4話
どれくらいゴムの身体の桜子に触れ続けていただろうか。
はぁはぁ、と彼女の息が荒くなっていく。
本当であればその気持の高ぶりが身体にあらわれてくるのだが、
その胸の先端は最初から立ちっぱなしだし、股間も湿ったりすることはない。
俺はベッドの近くに用意しておいたローションを用意し、彼女の大事な部分にねっとりとつける。
テカテカとした光沢を得た桜子の肌は、ますます人工物であるということを表明してきた。
桜子の顔に手を触れる、彼女が一瞬ピク、と震えたがコクリ、と小さくうなずいた。
俺のはそのそそりたつ股間のモノを、彼女のその人工的な入り口へ挿入した。
桜子の顔がぐっと目をつぶる。
身体は無反応ではあるものの、その顔は発汗し、頬は真っ赤に染まっている。
「んっ…んん…っ」
俺が少し動けばその動きに合わせて桜子からも小さな吐息が漏れる。
(不思議なもんだな。どういう超常現象なんだか)
普段であれば桜子が俺の手を握ってきたり、背中に回して抱きついてきたりとするのだが、今日の彼女はされるがまま、ピクリとも動かない。
イチモツをギュッと締め付ける感覚も一律な人工的な圧迫感のみだ。
(だけど…っ)
そう、その入口は男を喜ばせるだけに作られた形状をした商品なのである。
絶妙な凹凸が、かなり気持ちがいい。
「キヨっ…ヒコ君…もう…わたし」
どうやら彼女の脳には絶頂に近いという信号が送られているようだ。
「よしっ、いくぞっ…」
俺はピストン運動を激しくしていく。
ガクガク、ブルブルとそのゴムの体が揺れる。
「あっ…ああっ…」
そして彼女が絶頂に達する、その直前。
(魔人よ。顔を入れ替えろ!)
「あー - - - ………」
桜子のせつないあえぎ声は、一時停止を押された動画のようにピタリと止まる。その顔を見れば間抜けな顔で口をOの字にして開けたままのいつもの人形がそこにはあった。
ビュ、ビュルル!
俺も限界を迎え、その偽物の中へ白濁した液体を放出する。
「……………」
桜子も絶頂に達したはず…なのだがその様子は一切わからない。
たたただされるがまま、静止したままの人形がそこにはあるだけだ。
「さて…と」
ズボッとモノを引き抜き、その粘着質な液体を軽く拭き取る。
そして桜子の身体をベッドから起こしてみた。
彼女を支えていた俺の手を離した瞬間、桜子は重力に従ってその身体はドサっと倒れた。
彼女が何を思っているか、何を感じているか、何を言っているか。
それは一切わからない。だが、このただの性欲処理人形の中には間違いなく、桜子の意識が存在するのだ。
(とはいえ…このままだと何時もと変わらないからな…。魔人よ。彼女の心が読み取れるようにしてくれ)
一瞬、俺の身体がじわり、と熱くなる。
どうやら能力が付与されたようだ。
「桜子」
(キヨヒコ…くん?わたし、いったい)
「どうした?」
(なんで、わたしこんな…、ううん。違うよね、私はただの人形で…キヨヒコくんが私の気持ちを読み取れるからこうして優しくしてくれていて…?)
どうやらさすがに全身を人形にしてしまうと記憶の操作にも多少影響がでてくるようだ。
自身が人形である、という事実が素直に受け付けられていないようだ。
「そうだよ、桜子。君はただのオナホールがついた人形なんだよ」
とはいえ、さすが魔人の力か。
しばらく話していくうちに、彼女は自身の状況に疑問を持たなくなったようだ。
(そうだよね…?ああ、今日もキヨヒコくんが使ってくれて、うれしい…)
さて。
次の段階だ。
彼女にヤキモチを焼かせてみようか。
俺は、クローゼットの奥に隠してあった人形を取り出す。
今朝の段階では赤いゴムの塊人形だったはずのソレは、もちろん桜子と身体を交換したことでー。
(予想通りだ)
個性がなかった顔は、見かければ誰もが振り向くような美少女で。
肩まで伸びたサラサラと流れる髪の毛、綺麗手入れされた爪、真っ赤だったゴムの肌は、シミひとつないキレイな白い肌へ。
表情こそは無表情で虚空を眺め続けているものの、それは俺の彼女だった桜子の身体そのもので間違いがなかった。
(ごたいめーんってか)
壁にもたれかかるように座らせてみる。
意思のないその少女の身体は、その胸や股間をあられもなくさらけ出している。
そして同じように赤いゴム人形の桜子をその対面に、向き合うように座らせてあげてみた。
どれくらいゴムの身体の桜子に触れ続けていただろうか。
はぁはぁ、と彼女の息が荒くなっていく。
本当であればその気持の高ぶりが身体にあらわれてくるのだが、
その胸の先端は最初から立ちっぱなしだし、股間も湿ったりすることはない。
俺はベッドの近くに用意しておいたローションを用意し、彼女の大事な部分にねっとりとつける。
テカテカとした光沢を得た桜子の肌は、ますます人工物であるということを表明してきた。
桜子の顔に手を触れる、彼女が一瞬ピク、と震えたがコクリ、と小さくうなずいた。
俺のはそのそそりたつ股間のモノを、彼女のその人工的な入り口へ挿入した。
桜子の顔がぐっと目をつぶる。
身体は無反応ではあるものの、その顔は発汗し、頬は真っ赤に染まっている。
「んっ…んん…っ」
俺が少し動けばその動きに合わせて桜子からも小さな吐息が漏れる。
(不思議なもんだな。どういう超常現象なんだか)
普段であれば桜子が俺の手を握ってきたり、背中に回して抱きついてきたりとするのだが、今日の彼女はされるがまま、ピクリとも動かない。
イチモツをギュッと締め付ける感覚も一律な人工的な圧迫感のみだ。
(だけど…っ)
そう、その入口は男を喜ばせるだけに作られた形状をした商品なのである。
絶妙な凹凸が、かなり気持ちがいい。
「キヨっ…ヒコ君…もう…わたし」
どうやら彼女の脳には絶頂に近いという信号が送られているようだ。
「よしっ、いくぞっ…」
俺はピストン運動を激しくしていく。
ガクガク、ブルブルとそのゴムの体が揺れる。
「あっ…ああっ…」
そして彼女が絶頂に達する、その直前。
(魔人よ。顔を入れ替えろ!)
「あー - - - ………」
桜子のせつないあえぎ声は、一時停止を押された動画のようにピタリと止まる。その顔を見れば間抜けな顔で口をOの字にして開けたままのいつもの人形がそこにはあった。
ビュ、ビュルル!
俺も限界を迎え、その偽物の中へ白濁した液体を放出する。
「……………」
桜子も絶頂に達したはず…なのだがその様子は一切わからない。
たたただされるがまま、静止したままの人形がそこにはあるだけだ。
「さて…と」
ズボッとモノを引き抜き、その粘着質な液体を軽く拭き取る。
そして桜子の身体をベッドから起こしてみた。
彼女を支えていた俺の手を離した瞬間、桜子は重力に従ってその身体はドサっと倒れた。
彼女が何を思っているか、何を感じているか、何を言っているか。
それは一切わからない。だが、このただの性欲処理人形の中には間違いなく、桜子の意識が存在するのだ。
(とはいえ…このままだと何時もと変わらないからな…。魔人よ。彼女の心が読み取れるようにしてくれ)
一瞬、俺の身体がじわり、と熱くなる。
どうやら能力が付与されたようだ。
「桜子」
(キヨヒコ…くん?わたし、いったい)
「どうした?」
(なんで、わたしこんな…、ううん。違うよね、私はただの人形で…キヨヒコくんが私の気持ちを読み取れるからこうして優しくしてくれていて…?)
どうやらさすがに全身を人形にしてしまうと記憶の操作にも多少影響がでてくるようだ。
自身が人形である、という事実が素直に受け付けられていないようだ。
「そうだよ、桜子。君はただのオナホールがついた人形なんだよ」
とはいえ、さすが魔人の力か。
しばらく話していくうちに、彼女は自身の状況に疑問を持たなくなったようだ。
(そうだよね…?ああ、今日もキヨヒコくんが使ってくれて、うれしい…)
さて。
次の段階だ。
彼女にヤキモチを焼かせてみようか。
俺は、クローゼットの奥に隠してあった人形を取り出す。
今朝の段階では赤いゴムの塊人形だったはずのソレは、もちろん桜子と身体を交換したことでー。
(予想通りだ)
個性がなかった顔は、見かければ誰もが振り向くような美少女で。
肩まで伸びたサラサラと流れる髪の毛、綺麗手入れされた爪、真っ赤だったゴムの肌は、シミひとつないキレイな白い肌へ。
表情こそは無表情で虚空を眺め続けているものの、それは俺の彼女だった桜子の身体そのもので間違いがなかった。
(ごたいめーんってか)
壁にもたれかかるように座らせてみる。
意思のないその少女の身体は、その胸や股間をあられもなくさらけ出している。
そして同じように赤いゴム人形の桜子をその対面に、向き合うように座らせてあげてみた。
2019/08/21
水着な1日(前編)
とある一軒家。
その2階にあるアコの部屋に母親が入ってくる。
「まーたあの子は…」
ベッドの上に投げられるように転がっているのは通学カバンと袋。
「何度言っても洗濯置き場に出さないんだから…」
呆れたように母親が袋を手に取り、紐を緩めて開けるとそこには湿ったバスタオルと水泳帽子、そして水着が入っていた。
当のアコはというと、1階のリビングで横になってテレビを見ている。
「明日は…ほらもうー。体育があるじゃない」
机に貼られた時間割表から体育があることがわかる。
水着は乾きやすいとはいえ、洗うのに洗濯機を使えないため早めに出しておいてくれないと困る。
「濡れてても気にしないよー。どうせ入ったら一緒なんだし」
これは先週指摘したときに、あっけらかんとアコがつぶやいたセリフだが、そのズボラなところが母親の頭痛の種だ。
ひとまずはお小言だ。
あの子も放課後に部活をやっている手前、疲れているだろうからあまり口うるさくはしたくないのだが…。
「アコ。言ってるでしょ。洗い物は2階に持っていかずにすぐに洗濯に出してって」
横になってテレビを見ているアコ。
「これは一旦痛い目見ないとダメかしら…ね?」
母親のボソリとした呟きは、アイドルが出ているテレビ番組に夢中なアコには全く聞こえなかった。
---
(…あ、あれ!?)
ここはどこ?
宿題をして、ベッドに入ったはずの私。
ふっと眠りについて意識を失おうとした瞬間、私の意識がぱっと覚醒したのだ。
あたりを見回しても部屋は真っ暗で、物音一つしていない。
(う…うごけない…な、なんなのこれ…夢?)
金縛りにあったかのように身体がピクリとも動かない。
いや…麻痺している、という感覚よりもそもそも身体が存在していないような…。
感じるのは両肩になにか挟まれて吊られている浮遊感と、そして身体がしっとりと湿っている気持ち悪さ。
(なんなの、一体。変な夢…早く覚めてほしいわ…)
だが、その願いは叶わず。
リコは数時間の間、その体制のまま居続けたのだ。
だんだんと湿った身体から水気が抜けていくのがわかる。
ソレに伴って身体が軽くなっていくような。
最初に比べて体重が半分以下になっている気がする。
部屋に、太陽の明かりが差し込んでくる。
徐々に明るくなっていく部屋。
(ってここ…私の部屋だったの?)
そう、そこはどうみてもリコの、自分の部屋だった。
ただの不思議なことに視界は壁際、それも上方にあったのだ。
ーーー
母親がリコにかけたのは、憑依の術。
これは人の魂を一時的に別の"モノ"の中に入れる呪いの一種だ。
リコの身体からその意識の塊である魂を抜き出し、洗い終わって干しておいた彼女の"水着"の中へその魂を閉じ込めたのだった。
そしてー。
(え…、わ、わたしが…うごいている?)
ベッドの上でぼんやりしながら起きた人物を見て、全く動けないリコは驚愕する。そこには"自分自身"が眠りから覚めて動こうとしていたからだ。
"リコ"はキョロキョロとあたりを見回す。
そしてリコと目が合った…気がした。
"リコ"がニコリ、と微笑む。その微笑みに薄ら寒い恐怖を感じに動かないはずの身体が震えた…気がした。
母親が次にしたのは"水着"の中に生まれていた魂ーいわゆる付喪神の一種だーを取り出し、かわりに空っぽになっていたリコの身体に入れたのだった。
その付喪神は母親の「少し懲らしめてやって」という命令を理解し、行動することにしたのだった。
(きゃっ)
バチバチ!
リコは脇腹のあたりをぐっと捕まれ、引っ張られた。
身体がぐっと引き伸ばされる感触と共に、肩口あたりの洗濯バサミ2つから引きちぎられた。
痛みは感じなかったものの、"リコ"の行動の前に一切身動きできなかったことに驚愕するリコ。
そのまま"リコ"は水着になったリコをくるくると丸めるように小さくすると、そのまま水泳用の袋に無造作に突っ込んだ。
(むぐっ)
うっすらと塩素の匂いが染み付いたカバンに突っ込まれたリコは鼻を歪める…もちろん鼻などあるはずもないが、その匂いはなぜかちゃんと感じ取ることができた。
「あっ。そうだった。今日は2限から体育だった」
わざとらしいセリフで"リコ"がつぶやくと再び袋から取り出される。
(な、なんなの…?私、どうなっちゃってるの?)
いまだに詳しい状況を把握できていないリコ。
目の前の自分にそっくりな少女が、自分を乱雑に扱っていることだけがかろうじて理解できる。
"リコ"は鏡の前にたつとパジャマを脱ぎだす。
(ちょ…)
リコの焦りとは無関係にあっというまに素っ裸になる"リコ"。
"リコ"は右手に握られていた布のような小さな紺色の塊をバッと広げた。
その行動でリコはすべてを把握するのだった。
(え、わ、私…水着になってる?)
広げられた瞬間、身体中に空気が触れたのがわかる。
そして彼女につままれている肩口の紐と、自分が感じている感覚が一致することも。
そして…。
ぐっぐっと両手で大きく開口部を広げられ…。
(ま、まさかっ…)
"リコ"はその穴へ足を通し始めたのだった。
(む、むぐうう!?)
身体中が、内側から外側へ引っ張られる。
あっというまにリコは"リコ"の身体に密着するように着用されたのだった。
「んふふ、着られる感触はどう?」
(こ、こいつ…。私のことを把握してる…?)
鏡の前でシナを作ってポーズをとる"リコ"に合わせて、水着もその密着具合が変わる。
(って2限…。ってまさか着ていく気?)
そんな小学生じゃあるまいし。
しかしその悪い予想はあたったのか、その上からいつもどおりの制服を身につけていこうとする"リコ"。
あっという間にリコの視界はセーラー服とそのスカートに覆われてしまったのだった。
夏の薄い生地のおかげで何も見えない、ということにはならなかったものの、周囲の様子は全く伺えない。
(なにがいったい私の身に起こったの…)
母親の教育的指導であるとは露にも思わないリコは、成すすべもなく単なる水着としての1日を過ごすことになるのであった。
2019/08/15
PixivFanboxについて
あまりやろうとは思っていなかったのですが、
恒常的な創作意欲を向上させるためにPixivFanboxをやってみようと思います。
ここです。
100円のプランのみとなっています。
これより高額なプランは現状は検討していません。(恐れ多くてできない。するとしても多分内容は同一の値段だけ違うパターン)
向こうのサイトに書いてあることにプラスで補足を入れますと以下のような内容となります。
・ブログにて公開する作品を、こちらで先行公開します。
約1週間前後の先行公開となります。
Fanbox限定公開はありません。
・過去作のリクエスト等をいただければ作品を書く際の参考にいたします。
※確約するものではありませんのでご注意ください。
※通常のリクエストよりは優先度は高いです。
・月の支援作品はPixivFanboxにおいても期間限定による公開を検討しております。
※期間限定公開のため、過去支援作品の閲覧はできない予定です。おおよそ1ヶ月~2ヶ月の公開となります。
※私事によりその月の作品公開がお休みとなることがあります。
※支援を止めてしまうと作品の閲覧ができなくなります。テキストにコピーする等して各自で保管をお願いいたします。
上記のため月支援作品・PixivFanbox それぞれでしか閲覧できない作品というものはございません。
見逃す可能性がある方は、今まで通り月支援作品でご支援いただければと思います。
よろしくお願いいたします。
恒常的な創作意欲を向上させるためにPixivFanboxをやってみようと思います。
ここです。
100円のプランのみとなっています。
これより高額なプランは現状は検討していません。(恐れ多くてできない。するとしても多分内容は同一の値段だけ違うパターン)
向こうのサイトに書いてあることにプラスで補足を入れますと以下のような内容となります。
・ブログにて公開する作品を、こちらで先行公開します。
約1週間前後の先行公開となります。
Fanbox限定公開はありません。
・過去作のリクエスト等をいただければ作品を書く際の参考にいたします。
※確約するものではありませんのでご注意ください。
※通常のリクエストよりは優先度は高いです。
・月の支援作品はPixivFanboxにおいても期間限定による公開を検討しております。
※期間限定公開のため、過去支援作品の閲覧はできない予定です。おおよそ1ヶ月~2ヶ月の公開となります。
※私事によりその月の作品公開がお休みとなることがあります。
※支援を止めてしまうと作品の閲覧ができなくなります。テキストにコピーする等して各自で保管をお願いいたします。
上記のため月支援作品・PixivFanbox それぞれでしか閲覧できない作品というものはございません。
見逃す可能性がある方は、今まで通り月支援作品でご支援いただければと思います。
よろしくお願いいたします。
2019/08/10
【Booth】ある日を境に訪れた、身体だけが徐々に入れ替わっていくお話 : サンプル
あっはっは。
私は思わず笑いそうになるのを必死に堪える。
私は友だちと話しながら視界の隅に映る滑稽な姿のキヨヒコを捉える。
水泳の授業。
2クラス合同、プールの両サイドに男女別に別れて整列する私達。
プールを挟んで向かい側に男子たちが並ぶ。
女子たちはあまり気にしないふりをしながらもそのクラスメイトの体つきを品評しているようだ。
「ね、キヨヒコくんすごくない?」
「ほんとだ、あれこそ細マッチョみたいな…」
「私はちょっとムキムキしすぎていやかなー」
ぷっ。キヨヒコが…ムキムキって(笑)
女子達の視線にまぎれて、私もキヨヒコに視線をやる。
どこか落ち着きがない様子でそわそわしているキヨヒコ。
女子たちがいうような立派な筋肉がついているのは脚と手だけだ。
私の目には男子海パン一丁で、大きな胸を丸出しにしている変態にしか見えない。
支援はこちらから
私は思わず笑いそうになるのを必死に堪える。
私は友だちと話しながら視界の隅に映る滑稽な姿のキヨヒコを捉える。
水泳の授業。
2クラス合同、プールの両サイドに男女別に別れて整列する私達。
プールを挟んで向かい側に男子たちが並ぶ。
女子たちはあまり気にしないふりをしながらもそのクラスメイトの体つきを品評しているようだ。
「ね、キヨヒコくんすごくない?」
「ほんとだ、あれこそ細マッチョみたいな…」
「私はちょっとムキムキしすぎていやかなー」
ぷっ。キヨヒコが…ムキムキって(笑)
女子達の視線にまぎれて、私もキヨヒコに視線をやる。
どこか落ち着きがない様子でそわそわしているキヨヒコ。
女子たちがいうような立派な筋肉がついているのは脚と手だけだ。
私の目には男子海パン一丁で、大きな胸を丸出しにしている変態にしか見えない。
支援はこちらから
2019/08/09
ナノマシン ダイエット (2)
「ねえ、トモカのやつ、なんであんなのと付き合ってんだろうね」
「わかんないなあ。聞いても好きだからしょうがないって言うんだよなあ」
「根暗で何考えてるかわからんやつが好きだなんてモノ好きだよなあ…。本人はめっちゃ美人だからなおさらもったいない」
男女2人の仲を、クラスメイトたちが噂する。
放課後、HRが終わるとすぐにトモカは彼氏のほうにかけよっていったかと思うと、その腕に絡みつくように抱きついたのだ。
「ね、早く帰りましょ!」
HRが終わった直後、まだ担任も皆がクラスに残っているにもかかわらず、見せつけるような行動。
男子たちは"なんであんなやつが"、女子たちは"趣味が悪い…"と思っている。
男の腕を、自身の大きな胸を挟むように抱きついたまま、一緒に歩くトモカ。
その顔は本当に幸せそうで、周りが目に入っていない様子。
しばらく大通りを歩いた後、2人は小さな路地へ入っていった。
誰も人通りがいない通り。
男がポツリとつぶやく。
「ナノマシン…、一部解除」
「わかんないなあ。聞いても好きだからしょうがないって言うんだよなあ」
「根暗で何考えてるかわからんやつが好きだなんてモノ好きだよなあ…。本人はめっちゃ美人だからなおさらもったいない」
男女2人の仲を、クラスメイトたちが噂する。
放課後、HRが終わるとすぐにトモカは彼氏のほうにかけよっていったかと思うと、その腕に絡みつくように抱きついたのだ。
「ね、早く帰りましょ!」
HRが終わった直後、まだ担任も皆がクラスに残っているにもかかわらず、見せつけるような行動。
男子たちは"なんであんなやつが"、女子たちは"趣味が悪い…"と思っている。
男の腕を、自身の大きな胸を挟むように抱きついたまま、一緒に歩くトモカ。
その顔は本当に幸せそうで、周りが目に入っていない様子。
しばらく大通りを歩いた後、2人は小さな路地へ入っていった。
誰も人通りがいない通り。
男がポツリとつぶやく。
「ナノマシン…、一部解除」
2019/08/06
23歳、入園する(4)
バスがついた先は職場などではやはりなく、めぐみようちえん、とカラフルで大きな、"ひらがな"のオブジェが貼り付けられた建物だった。
すでに先に来ている園児たちが園内を狭しと走り回っている。
背中を押されるようにして門を潜らされる。
慌てて振り向けば自分の腰ほどまでしかない壁と門。
普段の自分ならやすやすと突破できるような高さだが…。
手を握ってみればわかる。
まるで寝起きのような痺れと握力の弱さ。
今、自分の体重を支えて立っているだけで精一杯な足の筋肉。
壁を乗り越えることができそうにもない、と脳が判断した。
…抜け出すのに全力で行けば…ううん、だめ。
門の脇で園児たちを出迎えしている保育士さんがいる。
その視線は登園してくる園児たちに注がれてはいるものの、こちらへの注意を片時も怠っていないことがわかる。
仮に抜け出せたとしても、一瞬で彼女たちに捕獲されてしまうだろう。
園庭を見回す。
子どもたちからしてみれば広々とした遊び場かもしれないが、大人にしてみたら小さな庭である。こんなところにずっと居たくはない…が状況が許さない。
ふと建物の中を見る。
そこには保育士さんにしては若すぎる、二人の少女が歩いていた。
私よりも更に若い…高校の実習生みたいな感じを受けた。
(私、あんな子にもお世話されるの…?ううん、そんなの嫌。やっぱりなんとかしてこの処置を中止させないと)
だが、その二人をよくよく見てみれば様子がおかしい。
まずは服装だ。
学校の制服を着ていないどころか、今の私と同じ…つまり周りの園児たちと同じスモッグに身を包んでいたのだ。
短すぎるスカートから若さに満ちたスラリとした生足が覗く。
その2人は手をつないだまま、仲良く教室の隅に座り込んだ。
1人は比較的落ち着いた感じでスカートの中が見えないよう気をつけて座ったのだが、もう一人はそんなこともお構いなしに床に足を広げ、おもちゃとヌイグルミで遊びはじめたのだった。
表情も笑顔いっぱいで自ら進んで遊んでいるのがわかる。…もう一人は無表情で感情が読み取れないが。
そんな私の視線に気がついたのか、落ち着いた少女がこちらを見て目と目が合った。
少女はすこし悲しそうな顔をしたあと、すこし考えこちらに手招きをした。
自分の顔を自分の指を指してみると、コクリ、とうなずく。
どうやら私を呼んでいるのに間違いはないようだ。
「おはよう…あなたも?」
彼女から発せられた言葉の数は少ない。
「あなたも?ってことは…」
私の口からも言葉が出てこない。
言葉が、語彙が抑制されてしなっているからだ。
つまりは目の前の彼女もおなじなのだろう。そしてとなりで遊び続ける同年代の少女も。
「コノハって言うの。よろしくね」
「あっ。わたしのなまえは…みほし、です」
慌てて自己紹介をする。
コノハちゃんはその後、たどたどしく今の状況を説明してくれた。
彼女も私と同じように、入園希望の取り下げを忘れていたということらしい。
「じゅぎょーちゅうに黒い人が来て…ここにもうずっと」
年からすれば高校生ぐらいだろうか。
クラスメイトがいる場であなたは今日から幼稚園児です、などと宣言されたのだろうか。
「ずっと?」
「えーと…5さいになった…かな」
私と同じ3歳扱いから始まったと考えればもう2年、ということだろう。
まさか私が知らないところでこんな制度が運用されていたなんて。
コノハちゃんの名札にはねんちょうくみ、と書かれた名札がついていた。
つまりは今年で卒園、ということだ。
…私の名札にはその2つ下のクラスが書かれているのだけども…。
「…その子は?」
「リッカちゃん。ここでいっしょになって、おともだちになったの」
リッカ、と呼ばれた子はこちらをじっと見てくる。
その目には理性、というか大人の知性が感じられない。
「せんせいの言うこと聞かなくて…くすり飲まされたの」
…私にかけられた言葉や語彙の制限以上のなにかがあるということだろうか。
「ここではせんせいのいうこと、ちゃんときいいておいたほうがいいよ」
「ううん…かえりたいよ…」
「…そうしないとリッカちゃんみたいにずっと3歳の行動しかできないままにされちゃうよ。じぶんではなせない、うごけない」
美星が知る由もないのだが、このリッカに施された処遇は、自分が取ろうとした行動がすべてキャンセルされ、自分の中にいる仮想人格の幼児が身体を勝手に動かすのだ。
自分の大人としての意識が残されたまま自分がわがままに振る舞う様子を自分の視界を通して見せつけられる。
これを地獄と言わずになんというのか。
「じゃ、クラス違うから…またあそびじかんに…ね?」
そういうとコノハはリッカの手を引いて去っていった。
そのうしろ姿は仲のいい姉妹のようにも見えた。
2019/08/05
魔法少女 ←→ 人形
「なに、あんた。フザケてんの」
魔法少女ノルンの目の前に立ちはだかるのは、怪人ブフラ。
ノルンとブフラの戦いは3年前から続いている。
戦い自体はノルンの有利な展開で進むのだが、いつもここぞというところで取り逃がしてしまっていた。
魔法少女ノルンの目の前に立ちはだかるのは、怪人ブフラ。
ノルンとブフラの戦いは3年前から続いている。
戦い自体はノルンの有利な展開で進むのだが、いつもここぞというところで取り逃がしてしまっていた。
登録:
投稿 (Atom)